ATTENTION!
これは「APヘタリア」のノマカプにょたりあの二次創作です。
以下の要素が含まれます。
・英 × にょ仏 のカップリング要素
・仏の化身が女性。(女体化ではなくまったく別の人として書いています)
・中世風ファンタジー
・人名呼び
ご了承いただける方のみ次へお進みくださいませ。
街の一角にある、小さな酒場。
「ねぇアーサー、『王の寵愛』って知ってるかい?」
弟のアルフレッドに尋ねられて、アーサーはグラスを磨く手を止め、弟の顔をまじまじと見つめた。
「むしろおまえ知らねぇのかよ」
「しょうがないだろ! 一週間前にこの国についたばっかなんだから」
「そうはいっても、『愛月まなづき』が近いんだぞ。噂くらいは聞いただろ」
驚きを隠せないアーサーに、アルフレッドは駄々をこねる子供のように、ぷうと頬を膨らませた。
「そのマナヅキってのも知らないさ! 残念なことにね。噂も聞いてない」
聞いてないというよりは聞く耳を持たないという方が正確だろう、という言葉を飲み込んで、変わりにアーサーは溜め息を吐き出した。弟の瞳はじとりとアーサーに向けられ、明らかに説明を求められている。
暫くのにらみ合いというか、一方的なアルフレッドのアピールの後に、根負けしたアーサーはぐるりと店内を見回した。時間がまだ早いので客はまばら。カウンターに一人、ここらでは珍しいほどの美女が座っているが、今しがたカクテルを提供したところなので、一応の暇はある。
アーサーはまだ水に濡れているグラスを1つシンクから取ると、それをアルフレッドに手渡した。
「説明してやるからこれ磨け。ほら、これ布」
「お安い御用さ」
アルフレッドが、側に置いてあったウェイター用の椅子に座ってグラスを磨き始めたのを確認してから、アーサーは自らも手を動かしながら口を開いた。
「王の寵愛っていうのはな。この国に古くからある風習のことだ」
「風習?」
「ざっくりいうと……夜の話な、王様も世継ぎのためだけに頑張るんじゃ可哀想だから、快楽目的であれやこれやしましょう、ってこと。男の王のときは女が、女王のときは男が、それぞれその慰みをするんだ。今は………アントーニョ?忘れたけど、カリエド国王って男の王だから、寵愛を受ける奴は貴族の女だろうな」
すると露骨に嫌そうな顔をするアルフレッド。
「そういう話なのかい、王の寵愛って」
聞くんじゃなかったよ。そう呟いて、アルフレッドは俯きグラス磨きに没頭し始めた。だが彼の耳朶がほんのり赤くなっていることをアーサーは見逃さない。アルフレッドは華やかな外見とは違って、この手の話が苦手、というよりは恥ずかしいらしかった。きっと今のこれも照れ隠しに過ぎないのだろう。俯いたり耳が赤くなったりするのは、小さい頃からのアルフレッドが照れたときの癖。もうすぐ成人だというのに昔から変わらない彼に、アーサーは目を細めた。
そのときだった。
「あら貴方、そういう話嫌いなの?」
突然の言葉に、反射的に声の方を向いたアルフレッドとアーサーは、その声の主をまじまじと見つめた。言ったのはカウンターに座っていたあの美女。彼女はにまにまとした顔を隠すことなく二人に向け、右手でゆっくりカクテルのグラスを回した。
「なーんだ、遊んでそうに見えて実は全然なのね」
そしてふふっと小馬鹿にするように笑う。アルフレッドはカッと頬を赤らめ、噛み付くように返した。
「うるさいな君、いいだろ別にそういう奴がいても!」
「アル」
呼び掛けてアルフレッドに抑えるよう促すと、アーサーは静かに彼女と向き直った。こういうときばかりは、アルフレッドは自らの兄を少しばかり尊敬せざるを得ない。すぐに熱が籠るのは自分の悪い癖だと、アルフレッドは自覚していて、毎度それを諌めるのは兄であるアーサーなのだ。
アルフレッドが見つめるなか、アーサーはアルフレッドが今までに見たことがないような笑顔で言った。
「お客様もウチの大切な弟を侮辱するのはやめてくれませんかねこのクソ野郎が」
「………アーサー」
複雑な顔をするアルフレッド。自分がこの国に来る前に何かあったのだろうか。過去のアーサーの対応ではない。
しかしこうなってはもう臨戦態勢だ。アルフレッドはぐっと覚悟を決め拳を固めた。最も、相手は女性なので肉弾戦に持ち込む気はなかったが。要は気分の問題である。
しかしアルフレッドの予想とは裏腹に、女性は驚いたように何度か瞬きをしたあと、怒ることなく声を上げて笑い始めた。
「あーもう聞いてた通りだったわ、裏通りの名物元ヤンマスター‼ 弟が来るようになってさらに口が悪くなったって言ってたけど、予想の上を行くわね! あー可笑しい!!!」
そう言って、なおも笑い続ける。
呆気にとられるアーサーに、アルフレッドは笑いを含んで言った。
「アーサー、そんな風に呼ばれてるのかい?」
「ちげーよ!」
即座に返すが、その頬に冷や汗が伝うのは思いあたる節があるからである。疑いの視線を向けたアルフレッドに、女性は微笑んだ。
「弟くんホントよ。この辺に住む知り合いから聞いた話だけどね、この人昔はここいらを牛耳ってた不良で、毎日生傷が絶えなかったんらしいわよ」
「そこまでじゃねぇ!」
「ってことは不良ではあったんだ」
アルフレッドの核心をつく言葉に、アーサーはハッとしてから青ざめた。元ヤンらしい口調で、女性に覚えてよろくそ野郎、と吐き捨てる。
「女性に対してそれはないわねぇ。私はフランソワーズ。ただのフランソワーズよ」
どうとでも呼んで、と付けたし、女性はアルフレッドを見つめる。おまえも名乗れと言うことだ。アルフレッドは少しカウンターから身を乗り出してフランソワーズのバイオレットの瞳を覗いた。
「俺は弟くん、じゃないぞ!アルフレッドだ」
「あぁそう、じゃあアル坊ね」
「アールーフーレーッド!」
「アル坊」
自己紹介を一蹴されて何となく精神的ダメージを負うアルフレッド。なんて強い女性なんだと半ば尊敬の念さえ湧く。
「あなたは本名が元ヤンマスター?」
フランソワーズがアーサーのほうを見て言った。
「んなわけあるか! アーサーだ!さっきからアルがそう呼んでるだろ!」
反論するアーサー。
「そう言われればそうね。元ヤンマスターのほうがしっくり来るけれど」
フランソワーズがそう言ってニコニコと微笑んだのを見て、アーサーはがっくりと項垂れた。自分が完全に弄ばれているのはわかる。だが何故か彼女の応答をスルーすることが出来ない。今までの何に対しても、フランソワーズはアーサーの思わず言い返したくなるポイントを的確に突いてくるのだ。
「なんなんだ…………」
「美味しいお酒のおつまみとしてお話ししてるだけよ?」
意図せず出たぼやきさえも拾われて、アーサーはいよいよどうしていいかわからなくなった。
「………そうね」
するとフランソワーズが誰に言うでもなく呟いた。
「お酒は本当に美味しいわ。アーサー、お代わり」
「……はいはい」
仕事中だという意識が引き戻され、アーサーは慣れた手つきでカクテルを作り始める。ジンやカシスのリキュールを入れる。氷を砕く。そしてゆっくりとシェーカーを持ち上げ、振り始める。
その所作の一つ一つを見ていたフランソワーズは、そろそろカクテルが出来上がるだろうという頃になって、ぽつりと漏らした。
「……………綺麗ね」
「………うぉっ、危ないよアーサー!」
アーサーの手を滑り落ちたシェーカーを、アルフレッドがすんでのところでキャッチした。
フランソワーズは意地悪そうに笑う。
「あらアーサー、あなた、頬っぺだけじゃなくて顔全部真っ赤よ?」
「~~~~~ッ‼」
「あ、ほんとだ」
アーサーの顔を除き込んだアルフレッドもそれを確認する。アーサーは顔を隠すようにカウンターの下にしゃがみこむと、うるせぇ!と叫んだ。
強がりにしか見えないアーサーの言葉に、フランソワーズとアルフレッドは目を合わせる。と、次の瞬間、弾けるように笑いだした。
「そんなに笑わなくてもいいじゃんかよ!」
「そう言ったって……ふふっ、ねぇアル坊?」
「ハハ、本当に‼………クッ」
二人の笑いはとどまることを知らない。ますます熱くなる顔が冷めることをひたすらに願いながら、アーサーは顔を両手で覆った。
しばらくして、やっと笑いがとまった。フランソワーズは目尻に溜まった涙を指でぬぐって、ふぅーっとゆっくり息を吐き出す。
「何年ぶりかしら、こんなに笑ったの」
「俺もさ!」
二人の目が合う。また笑い始めそうな雰囲気だったので、アーサーはすかさず言葉を挟んだ。
「おい、カクテルはもういいのか!」
「あぁそうね! いただくわ」
カクテルのことをすっかり忘れていたのか、フランソワーズはぽんと手を打った。アーサーは溜め息をつきつつ、しかし丁寧に、グラスをフランソワーズの前に置いた。それをさっきのようにじっと見つめてから、フランソワーズは静かに微笑んだ。
「うん。やっぱり綺麗だわ」
その一言でアーサーの身体がビシッと固まった。フランソワーズは微笑んで付け足す。
「カクテルの色がね?」
「…………ばかやろう」
アーサーはぼそっと呟いて、そっぽを向いてしまった。顔を隠したいのだろうが、耳が真っ赤なのが丸分かりで逆に笑いが込み上げてくる。それを必死に押さえてアーサーの横を見ると、アルフレッドが両手を開いてお手上げのポーズをしていた。 顔は全開の笑顔。彼もまた笑いを耐えるのがつらいらしい。
フランソワーズは一度目を閉じ何かを考える仕草をした。随分と長い思考だった。やがて彼女はゆっくりと立ち上がると、何枚かの硬貨をカウンターにおいて、ついでにウインクをひとつ。
「今日はおいとまするわ。また作ってね、アーサー」
「もう帰るのかい?」
アルフレッドが驚いたように言った。
「えぇ。たぶんそろそろだと思うから」
「………なにがだい?」
その問いには答えず、フランソワーズは人差し指を口に当てて「ナイショ」と笑う。怪訝な顔をしたアルフレッドの横で、アーサーはまだ少し恥ずかしそうに頬を染めたまま呟いた。
「……もう二度とくんなくそ野郎」
「もー、だからフランソワーズっていってるでしょ? 次来たときは絶対名前で呼ばせるんだから」
次も来るのか、とアーサーは絶句する。その反応すは楽しむかのように、フランソワーズは去り際に笑って手を振った。
「じゃあね、元ヤンマスターさん!」
「二度とくんな!!!」
叫んだらアーサーの言葉は、ドアの向こうの彼女には、もう届いていなかった。
酒場を出たフランソワーズは、そのまま大通りを闊歩していた。道行く男の視線を集めながら、それをまったく気にすることなく歩き続ける。周りの男達はめったに見ることの出来ない美女だというのに、誰も彼女に声をかけることはできなかった。彼女独特の雰囲気が、人を近付けることを許さないのだ。
しかし、男衆がもう無理だと諦めようとした時、一人の少し浅黒い肌の青年がフランソワーズに声をかけた。
「フラン」
振り返り声の方を向くフランソワーズ。声の主を確認して、彼女は妖艶に微笑んだ。
「トーニョ」
「おまえがこんな裏通りにいるとは思わんかったわ」
トーニョと呼ばれた男は実にわざとらしく言った。
「フランみたいなお嬢様がこんなとこにおってええの?」
「その言葉そっくりそのまま返すわ。貴方みたいな高貴なお方がこんな薄汚い所にいて良いのかしら?」
「はは、お互い様っちゅうことやな」
そう言って晴れやかに笑うトーニョ。そして優しくフランソワーズの肩を抱くと、彼女の耳元で囁いた。
「おまえを迎えに来たんや。ボヌフォア家の御姫さん」
「…………光栄ですわ、我が国王」
静かに腰をおって敬意を示したフランソワーズ。それを目を細めて見つめてから、トーニョ………アントーニョ=ヘルナンデス=カリエド国王は、彼女の顎を手で支え上を向かせると、その額に口づけを落とした。その甘さを噛み締めるようにゆっくりと目を閉じてから、彼は絞り出すように呟いた。
「…………もう少しで愛月や、フラン」
それは本当に小さな声、フランソワーズにしか届かない声だった。
「王の寵愛は、おまえだけに向けるもんやで」
トーニョの決意のこもった言葉のあと、少しの間二人は見つめ合うと、今度は唇を重ねてキスをした。なんだかとても悲しいキスだわと、何故かフランソワーズはちくりとした痛みを感じた。決して悲しいはずはないのに。 理由は自分でもわからない。ただ最近この痛みを感じることが増えたような気がする。
何故なのだろう。考えて、考えて、考えて―――答えはわからぬまま、胸に小さなわだかまりを残して、トーニョのキスの甘さに逃げるように、フラソワーズは目を閉じた。
その日の深夜。店を閉めたあと、アーサーとアルフレッドは二人でカウンターに座りグラスを傾けていた。中身はアーサーお手製のカクテルである。
すでにほろ酔い状態のアルフレッドは、飲みかけのグラスを机の上において、アーサーに問いかけた。
「マナヅキって結局なんなんだい? いろいろあって聞きそびれたけどさ、やっぱり教えてくれよ」
「あぁ?」
こちらも出来上がりつつあるアーサーは、 カクテルを飲み干してぷはぁと息を吐いた。
「そうだな………王様と、その寵愛を受ける奴の契約みたいな式典だな」
「わざわざ契約するのかい?」
「おう。子供ができたときのことも考えてな。まぁだから、本当はあんまり華やかな式典じゃないんだが、最近だともうどんちゃんお祭り騒ぎだ。結婚式もくらむぜ」
「子供ができたらどうするのさ」
尋ねたアルフレッドに、アーサーはビシッと人差し指をたてるとニヤリと不敵に笑った。
「薬を使って中絶させる」
「………うわ」
「妊娠しないための薬も使ってるらしいから、めったにそーいうことは無いけどな」
そこでアーサーは立ち上がって、もう何杯目かのカクテルを作り始めた。
「アーサー、もうやめた方がいいんじゃないのかい?」
「うるせぇ」
親切な弟の言葉を足蹴にして、アーサーはシェーカーを振る。それを呆れ半分で眺めていたアルフレッドは、ふいに今日の珍客のことを思い出した。
「たしかに綺麗だよアーサー。あ、カクテルじゃなくて君自身がね」
「あ?」
何を突然、と眉をひそめるアーサーに、アルフレッドは少し焦ったように手を振った。
「いや、フランソワーズがそう言ってたじゃないか。確かにそうだなと思って」
「…………」
アーサーは無言でアルフレッドを見つめた。瞳が拗ねたときのそれだったので、アルフレッドは若干の不安を覚える。面倒くさいことにならなきゃいいんだけど。
「………誉めても何もでねーぞー」
だがアーサーはそう言っただけだった。引き続きカクテルの準備をするアーサーに、ほっと胸を撫で下ろすアルフレッド。
「別にそれを求めちゃいないさ。……あぁそうだ、フランソワーズで思い出したんだけど」
そこで言葉を切って、アルフレッドは自らのエプロンのポケットをごそごそと漁った。しばらくあれ?とか、確かにいれたはずなんだけと、だとか呟いていたが、やがて自慢気に握った手をカウンターの上にどんと置いた。どうやらお目当てのものは発見できたらしい。
「これ、彼女が忘れていったんだ」
アルフレッドの手が開かれた。アーサーは思わず目を見張る。そこにあったのは、綺麗な大粒のエメラルドが埋め込まれたブローチだった。
「………ふぅん」
「ふぅんってアーサー、次彼女が来たときにきちんと返しておくれよ」
「…………あぁ」
本当にわかったのかどうかわからない浮わついた返事をして、アーサーはカクテルを注ぐだけ注ぐと、シェーカーを置いて、アルフレッドの手の上で輝くブローチを手に取った。
よく見ると、エメラルドの周りには細かい装飾が施されていて、さらにそれを囲むように小粒のダイヤモンドが並んでいる。動かすたびにそれがキラキラと光り、誰がどうみても高価なものだとわかった。
しばらくブローチを物色していたアーサーだったが、ふいにある一点を見つめて、彼の瞳が止まった。
「………!」
だいぶながいことそれを見つめて、アーサーはブローチに彫られた模様をなぞる。
「これって……………」
「なんだい?何かあったのかい?」
アルフレッドがのぞきこむと、そこには丁寧に彫られた鳥の紋様があった。
「タカ?」
「…………いいや、ワシだ」
「何で断言できるのさ」
アルフレッドの問いに、アーサーは緊張した面持ちのまま答えた。
「これ………王家の紋章なんだよ」
「え⁉」
羽を広げた一羽のワシが、台の上で顔を横に向けた厳ついモチーフは、この国の王家の紋章だった。それと全く同じものが、ブローチには彫られている。
「でも何でフランソワーズがこんなものを?」
アルフレッドが至極最もなことを言った。
「まぁなりは良かったし、一般人じゃねぇとは思っていたが………まさか王家の人間だったのか……?」
だが、この国の王家は西の方の血を引いていて、普通より浅黒い肌の人間が生まれる傾向にある。フランソワーズの肌は浅黒いなんてことは全くなく、むしろ雪のように白い肌だったはずだ。ならば彼女は王家に近い間柄の貴族?それも、直接こんな高価な宝石を与えられるような………
考えても深みにはまるばかりで、アーサーは唸った。
「謎の人だね、フランソワーズ」
アルフレッドの言葉に、アーサーは頷いてそれを肯定した。フランソワーズ。彼女は自らをただのフランソワーズと言っていたが、きっと違う。一体どこの貴族様なのか。情報のツテをたどれば、なんとか調べられそうなことはない。
「フランソワーズ、ねぇ……………」
『あなたなんかに見つけられっこないわ』
脳裏にフランソワーズの意地悪な笑顔がちらついて、アーサーは無性に腹正しくなった。持っていたブローチをじっとみたあと、無造作にアルフレッドに突き返す。
「…………調べてやる、まってろフランソワーズ………‼」
吐き出した息と共に言葉を出して、アーサーはカクテルを一気に煽った。